二人の「負け組」
 
「負け組は生まれながらにして負け組なのです」ー。
秋葉原で無差別殺傷事件を起こした青年が、携帯ブログにこんな記述を残していたという。これとよく似た小説の一節を思い出した。直木賞作家・和田芳恵(1906-1977)の自伝「暗い流れ」。生家の破産、夜逃げ、父の死と続き、少年は自分の運命を恨んだ。不運や不幸の中味には違いがあると思うが、この二人の「負け組」は正反対の道を歩んだ。

その分岐点は、いったいどこにあったのだろう?和田の場合は、自伝にもある旧制中学時代の「思いもかけない体験」が、その後の生き方に大きく影響したように思える。兄弟を養うために学校をあきらめかけていた和田に、級友が「通信授業」で力を貸し、教師たちは学資を援助してくれる篤志家探しに奔走した。その様に当惑すると同時に、人の心の温かさを知ったという。

背景には私学史上で異彩を放つ北海中学(現・北海高校)の教育思想があった。弱者や落伍者、敗北者をも受け入れ・包み込み、互いを認め合いながら、切磋琢磨することに重きを置いた教育。あの事件の本質と教育は無関係かも知れないが、青年が和田と同じような教育の場を経験していたら参事を引き起こすことはなかったのではないか、と思う。

北海120年の人物伝「百折不撓」の編纂をきっかけに「第二の母校」となった北海高で講演する機会があり、そんなお話をさせてもらった。(写真は北海道開拓の村に保存されている北海中学校舎) Topics
Topics 2008/07/04