「青春の門」とPFI事業
 

 ▼...「香春岳は異様な山である」。五木寛之のベストセラー小説「青春の門」の冒頭に描かれた山は標高500mに過ぎないが、確かに奇っ怪な風貌が印象的だ。その山懐に広がる人口1万人余りの小さな町が今、財政難に苦しむ全国の自治体の注目を浴びているのをご存知だろうか。PFI方式による浄化槽整備事業。下水道を完備するには時間もカネも足りない。町村合併がご破算になって職員の手も回らない。古里の川は汚れるばかり。そんな四重苦五重苦の中から、福岡県香春町がPFIという方式に手探りで挑み始めたのが5年前だった。

 ▼...PFIは、本来は役所が行う公共施設の整備や管理運営を民間が肩代わりするもので、「民活による新しい公共事業」と呼べる。香春町では、民間が設置した浄化槽を買い上げた上で管理を委託するという方法を取った。この結果、過去10年間で375基しか普及できなかった浄化槽が、初年度は250基、2年度目は262基と急加速でペースアップ。当初危ぶまれた10年間で5千基という目標もグンと現実味を帯びてきたのだ。役場の仕事は補助金などの事務手続き程度で済み、専門職員の配置も不要であるなど、有形無形のメリットが現れている。

 ▼...こうして見るとPFIが万能の魔法のようにも映るが、香春の成功の秘密は、単純に方式にあるのではない。PFI推進の主役である民間業者が、ユーザ・住民の利益を優先する「顧客主義」に徹し、古里の水環境を守るという「まちづくりの視点」を大切にした点にある。住民の側から見ると、自己負担額が個人設置だと約123万円(5人槽)、市町村設置で約80万円なのに対し、香春方式では約58万円で済む。広報紙による紋切り型の告知でなく、経済性や環境メリットなどについて懇切丁寧な説明を聞けば、心が動くのもうなづける。

 ▼...役所と住民それにビジネスチャンスを広げた企業と「三方一両得」の構図でもあるが、香春方式は、浄化槽の可能性を示す一方で、浄化槽業界の体質改善の必要も示唆している。第1が10年20年の長期事業を担うにふさわしい企業としての信頼性。第2にIT化や情報化にも対応した高い技術の裏付け。第3にメーカーから汚泥運搬に至るまでの浄化槽ネットワークの結束。さらに住民にアピールし、行政により良い道を提案するためのノウハウや情報発信力も求められている。ここから、未来に向けた浄化槽の「可能性の門」が開いていくのではないだろうか。  (梶)

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Column  2008/01/17