美術館の館長はクジラ

 ▼…浜の松原、砂に残された水鳥の足跡、波に揺られる漂流物。365日、24時間開放の美術館は、BGMも素晴らしかった。秋にはらっきょうの花見が楽しめるという。高知市から車で2時間ほどの大方町に「砂浜美術館」がオープンしたのは、89年夏のことだった。

 ▼…西に名勝・足摺岬、東に「最後の清流・四万十川」。間に挟まれた我が町には「なんにもない」と考えれば、やっぱりなんにもない町だった。しかし、「砂浜が美術館だったら…」と考えてみたら、周りは美しいオブジェや、音楽にあふれていた。

 ▼…流れ着いたゴミは「漂流物展」では立派なアートであり、哲学や環境問題を考える素材でもあった。「考える」というよりも「見方を変えてみる」ことで、大方町の人たち自信が大きく変わってきているようにも見える。

 ▼…砂浜美術館は、観光振興に大きな成果を上げているが、それ以上に、住民がさまざまな足下の資源に目を目を向けるきっかけとなっていることは見逃せない。すたれかけていた黒砂糖やらっきょう漬けが、差別化された商品として「復活」したことは、伝統的な文化をもう一度見つめ直した結果ともいえる。立派な美術館を建てるばかりが、地域文化の振興策ではないようだ。

(15.Jul.2000 梶田博昭)