ダイジェスト・リポート

市町村合併を考える〜石狩シンポジウムから

2002/04/20

 日本青年会議所道央ブロック協議会主催の「北海道の市町村を考えるシンポジウム」が4月20日、石狩市で開かれました。「活力ある地域創造」をテーマにした討論から、市町村合併に関するパネリストの発言をダイジェストでご紹介します。

 1. 今、何が問題か

 ■地方自治の本質論が飛んでいる〜逢坂 誠二さん(ニセコ町長)

  今後財政がどうなっていくのか、極めて不安だ。自治体は今のままの形では続かない、何らかの変化が絶対に必要だ。合併するしないの問題以前に、私たちのマチはどう変化すべきかをもっと真剣に考えるべきだと思うが、そうした地方自治の本質議論をもう許さない段階にある。私たち首長は船長として「ここで船を止めて本質議論をしよう」とは行かないところに大きな悩みがある。  合併論議を前提としても問題がある。合併しない道を選択した場合には、地域の将来像が描けない。財政がどうなるのか交付税はどうなるのか先行きが全く見えない。片山総務相にも、合併を選択しなかった場合の条件提示を求めたが、簡単でないと言う。事務方は「マクロでは出せるかも知れないが、個別の町村について交付税はいくら減るとかは言えない」という。私たちは与えられた条件が不十分な中である程度の意思を決めなければならなくなっている。

 ■合併の「質的メリット」が見えない〜田岡 克介さん(石狩市長)

  国は合併のメリットとして市になれるとか中核市として再編できるとか「量的メリット」を挙げているが、石狩市については、明確なメリットをつかみ切れないでいる。このことも市民には明確に伝えた上で、議論しなければならない。石狩市の場合、今後恐らく交付税はそう落ちないと思うが、目先のメリット・デメリットで合併を考えてはならないと思う。量的な満足よりも質的な満足が重要であり、質的とは、私たちが何を求めていくのか、文化を判断の目線に置くことだと思う。そのためのインフラをどう整備していくか、文化論を市民の間で闘わせていかなければならない。厚田、浜益村、石狩市の3つのマチの将来はどうあるべきか、真剣な議論を進めなければ、合併の議論も進まない。

 ■生き残りは「勝ち組連合」だけ〜相内 俊一さん(小樽商科大学教授)

  北海道の合併要綱は、中心地間の距離を40キロ以内とする基準によるもので、その組み合わせが実現した場合、本当に行政サービスが向上するのかどうかは全く視野に入っていない。どことも合併できないところがあり、道の頭の中には「それもしかたない」という考えがあるのかも知れないが、そうだとすると、合併できないマチはどうしたら良いのか、将来像を示すべきだ。そうしないと合併するかしないかの選択自体が、非常に難しくなる。  借金を抱えた自治体と合併するのはいやだというマチもあり、結局、合併ができるところだけの「勝ち組連合」ができるだけ。弱いマチは「お気の毒でした」でいいのか、という問題が起きてくる。合併できずに残ったところを町村として成り立って行くようにどう支援するのか、何も見えていない。本当に困っているところの交付税を削り、2級町村制の対象として自治を取り上げるといった、罰を与えるような発想は良くない。

 2. どう対処するか

 ■有効な解決策かデータ基に検証を〜相内・小樽商大教授

 まず第一の判断のポイントは、合併を選択するかしないかを考えると言うこと。財政の効率化や多様な住民ニーズに対応した機能の充実などの問題はどこのマチも抱えており、広域連携の取り組みも実績を上げている。それらの問題の解決方法の一つとして合併は考えられるが、果たして本当に合併によって解決できるのか、というところで一度考える必要がある。もしかして合併によって、問題がもっと難しくなる場合があるかも知れない。メリット・デメリットは、可能性に過ぎない。従って、本当にそうなるかどうかは、本格的にデータをそろえて、きっちりと検討する必要がある。  例えば、石狩市と厚田、浜益村が一緒になったときに、どんなまちづくりができるのか。どんなプラスの展開ができるのかと言った議論を進めるべきだ。

 ■情報公開し、マチの将来を論議〜田岡・石狩市長

  合併問題は、良いチャンスだと思っている。社会環境が大きく変わってきている中で、自分たちのまちを良く考えてみよ、ということだから、この機会に将来のまちづくり、市民サービスをどう考えるか議論したい。浜益、厚田村を加えた3自治体による研究会活動と並行して、住民を交えての行政セミナーを開催し、広汎な議論を進めていく計画だ。そのための情報は最大限に公開していく。  財政力に差があるケースでは、財政の問題が露骨に出る可能性はあるし、寄らば大樹と考えれば、札幌市との合併議論も起きてくる。しかし、一方で、ここは400年の歴史を持つ北海道では古い地域で、石狩湾という共有海域を背景にした生活、文化を持っている。現に連携の実績もある。これらを踏まえて合併のメリット・デメリットを考え合わせて、総合的に判断していく必要がある。可能な限り情報を示しながら議論を進め、国の示している考え方に、きちっと一度答えを出そうと思う。

北海道の合併パターンにある石狩3市村の財政比較

  面積(平方Km) 人口(人) 職員数(人) 財政力指数 積立金残高(千円) 地方債残高(千円)
石狩市 118 55,103 394 0.66 56 500
厚田村 293 3,005 68 0.17 340   1,160
浜益村 311 2,356 70 0.10 285 1,563

(99年度決算。積立金・地方債残高は、住民1人当たり。人口は2000年3月31日時点)

 ■何より役場職員が真剣に考えよ〜逢坂・ニセコ町長

  昨年、倶知安、京極町とともに合併問題に関する研究会を作ったが、今後は町民にどういう手順で説明していくか早急に整理して、年末に向けて相当回数の住民説明会を開催する予定だ。また、職員の間でも10人程度のグループに分けてワークショップ形式で議論を続け、最終的に合併に対する意思を明確にして平成15年3月を迎えたい。  各自治体は、平成17年3月を強い意志を持って迎えるべき。首長の責任でもある。時間が少ないとはいえ、まだあるのだから、必死に議論し、その結論を首長が引き取って方向を定め、議会の最終決定により進めることが大事だ。議論の前提として、自治体職員の役割が大きい。行政のプロとして合併をどう考えるか、住民として自治体をどう考えるか。労働者としてどう考えるか。まず、役所の中でまじめに議論をすることが大切だ。

 3.地方自治の姿は

 ■北海道型カウンティ制度を提案〜相内・小樽商大教授

  地方自治のベストモデルはどこにもない。中央と地方政府の関係をどうするか、という視点から地方政治・地方政府のあり方を考えるべき。外国との比較で日本が最も弱い点は、地域が自ら決める仕組みが保障されていないこと。例えば、議会の仕組みは、規模にかかわらずみな同じ形を持っている。選挙も同じ。シティマネジャー、タウンミーティングなどいろんなスタイルがあるが、行政のやり方を工夫してできないことになっている。ここはもっと主張して良いと思う。  石狩を例に取れば、合併によってそれまで自分たちが決めてきたこと全部を石狩市の議会に任せて良いのか。米国のカウンティ(郡)のような「石狩湾北部郡」といった自治体単位があって、郡政府の議会が広域的なことを決め、より地域に身近な生活・地域上のサービスに関することは現在の町村単位の地域で決める。共通する広域的なサービスは郡の自治体が責任持ってやるような仕組みを考えてはどうか。  何が何でも合併ではなく、北海道型の地方自治のスタイルをもっと主張して良いのではないか。本来は、道や道議会などで議論すべきことと思う。水平的な市町村懇談会のような場で、合併できないところをどうしていくのか国や道に明確な対策を求めることも必要ではないか。 

 ■自律の権限がまちづくりを多様化させる〜逢坂・ニセコ町長

  国が合併を進める理由は、財政問題に尽きる。交付税の財源は年間12兆円で、8兆円も不足している。交付税に関わる国の借金は50兆円を超えるところまで来ているから、国は「もうこれからは交付税なんか配れないんだ」とはっきり言っている。そうすると、やはり自治体は何らかの変化が必要だ。合併するしないの問題以前に、私たちのマチはどう変化すべきかをもっと真剣に考えるべき。その時、カウンティのような仕組みで自治権を持たせる方法も一つの考え方だと思う。  何より、自分たちで判断する力を日本の自治体に与えられていないことが非常に大きな問題。自立の前に、自己をコントロールする自律の権限も持っていない。権限を持っていれば、少ないカネの中でも頑張ろうかという発想も出てくる。日本の自治には多様性が認められていないところに大きな問題がある。

 ■次世代に責任持った選択を〜西川 直樹・JC道央ブロック協議会会長

  日本青年会議所はいち早く住民自治、市民参加を重視した「地域主権型」の社会づくりを提唱してきた。合併についても、地方分権と言うよりは地域主権の意味合いが強いものと考えている。また、合併は地域づくりの目的ではなくて手段の一つだと思う。今この時期にきちんと論議をし、これからの世代の人たちに対する責任を持つ必要がある。選択肢はいろいろあると思う。財政面から合併が論じられることが多いが、財政が豊かであれば良いわけでもない。市民の一人として一緒に考えていきたい。

  参考:シティマネジャー 行政経営を重視する米国では、多くの自治体が行政の専門教育を受けたシティマネジャーを、行政執行の責任者として採用している。日本の助役にやや近い存在だが、能力次第のヘッドハンティングや解任が行われる。任命権と予算執行権は市長が議長役を務める議会にある。行政の専門性・公平性の面でシティマネジャー制度の考え方を日本でも導入すべきとの意見もある。

 

 米国・カウンティ制度  州政府の下に多様な自治形態

 住民にとって最も身近な、公共の地域単位を「基礎自治体」と言います。より広い解釈に立てば、共通の生活基盤に立つ町内会も基礎自治体と言えます。しかし、一般には、法を根拠に、公共サービスの原資を住民の税負担に求め、サービス供給の実行責任者を選任する、という条件を備えた最小の自治組織・機構が「基礎自治体」と呼ばれます。

 ■重層構造の日本とは対照的

  日本の場合は、市町村が基礎自治体であり、複数の市町村を包む広域自治体が都道府県ということになります。  日本が単一の国家の下に都道府県と市町村が重なり合った重層構造を持つのに対して、合衆国制の米国では地方制度のあり方については州政府に委ねられているため、地方制度の仕組みも基礎自治体の形態も非常に多様化しています。中には、市町村のような基礎自治体が存在せず、州が直轄するケースや、学校、警察、病院、水道など供給するサービスの主体がそれぞれ異なり、特定のサービス供給だけを目的とした特別区のようなものもあります。

 ■サービス供給の効率性を重視

 カウンティ(郡)は複数の基礎自治体を包含した州の管轄区で、基礎自治体の存在しない地域に対する行政サービスを提供したり、基礎自治体が行う業務・サービスの一部を代わって行います。カウンティがカバーする分野も、その規模や能力によってさまざまです。  住民の側からみると、地域の生活に直結する問題については基礎自治体の自治機能を生かし、税負担に応じた行政サービスを基礎自治体やカウンティ、あるいは州へと依存・委託することも可能となります。サービス供給の効率性に目を向けつつ、地域の自主性も住民の合意の範囲内で確保していこうとする考えと見ることもできます。  フランスも「コミューン」と呼ばれる平均人口1600人程度の基礎自治体が約3万6千ありますが、サービス供給は国や出先機関、広域連合などが主体で、米国に比べるとやや画一化されているのが特徴です。

 

 

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