講義ノート

市町村合併を考える〜石狩湾岸3首長討論会から

2002/07/21

 

 「市町村合併」をテーマに、札幌市北部の石狩市、厚田村、浜益村の3首長による公開討論会が、石狩市内のコミュニティセンターで開かれました(7月21日、石狩青年会議所主催)。交付税の依存度が高く、広域であるなど府県と異なる事情を抱えた北海道の自治体の苦悩もにじみ出た討論の概要をリポートします。


 【1. 今、まちづくりは】


 分権時代のシステムづくり目指す 

  ■田岡克介・石狩市長

  税源が予算割れを起こし、行政コストは年々かさみ、公債費の償還は間もなくピークを迎える。大きな社会、政治の転換期を迎え、石狩市もまた悩み苦しんでいる。今こそ、聖域なき財政構造改革を進めていかなければならない。

  高水準の施設整備や社会福祉の拡充だけが市民の満足度を高めるのではなく、市民が参加して意思が反映される喜びを享受することの方が重要であり、21世紀の新しい構造を作るそうした基本的なシステムが求められている。

  このため、市民の意見を聞きながら自治体の中味すべてを洗い直し、地方分権時代の自己責任・自己決定・自己統治というものに自らの答えを出そうとしている。その試みのひとつが4月にスタートした市民の声を生かす条例で、条例の精神を生かしながら難局を乗り切りたい。その意味で、市町村合併は大きなテーマであり、今答えを求められている。

 基盤整備に我慢重ねる 

 ■ 牧野健一・厚田村長

  第1次産業が主体のまちであり、村民も自分の郷土に誇りを持っている。今後とも恵まれた自然環境を生かした村づくりに取り組んでいきたい。農業基盤整備はある程度進んでおり、水産資源の増養殖事業の振興や、第1次産業と観光をうまくドッキングさせていくとともに、石狩市の経済発展もにらみながら何とか村づくりをしていきたいと考えている。

  上下水道の整備などを優先し、一部供用を開始するところまできたが、これまでかなり村民に我慢をしていただいた折、合併問題が急浮上してきて、正直いって戸惑いもある。

 交付税削減で厳しいやり繰り 

 ■ 木村康美・浜益村長

  北海道の中でも自然がよく残っている地域であり、果物も育つ温暖な気象条件にも恵まれている。新鮮な魚や良いコメも取れる。10年先、20年先のことが考えられるか、不安もあるが、これらの浜益の良さを生かした村づくりに取り組んでいる。  財政面では、石狩市や厚田村に比べものにならないほど厳しい。交付税は前年度を14.6%下回る中、職員の期末手当や日当、旅費を切り詰めるなど自分たちで努力するとともに、手数料なども引き上げている。今後も、財政負担の大きい人件費の削減などが課題で、職員とも相談しながら取り組んでいく。


 【2. 圏域をどう見るか】


 縮まった時間・空間距離 

  ■ 石狩市長

  この50年間で社会の構造は大きく変わってきており、従来のシステムが果たしてベストなのか。情報通信の発展は時間・空間的な距離をあっと言う間に短縮した。例えば、浜益村はかつて船でしか行けなかったが、今は車で1時間で行けるようになった。この1時間が遠いとみるか近いとみるか、それぞれの住民の判断だと思う。

  市民との会話の中で札幌との合併の選択を求める声が多いとなれば、当然考えなければならないが、今回論議の俎上に乗せる考えはない。今抱える都市問題を解決するための近道として札幌市との合併を考えるのは大いに疑問だ。

 生活は南に依存、しかし無理も 

  ■ 厚田村長

  歴史的にも漁業を通じて石狩市とのつながりは古くからある。病院、買い物、高校といったことを考えると、どうしても南の方に依存する生活になり、一面ではあるけれど、合併もあながち変な話ではないということになる。しかし、石狩市から浜益村までは60キロもあり、北海道に多く見られる連担されていない自治体の合併は、何か無理があるような気がする。

 似た歴史、付き合い長いが… 

  ■ 浜益村長

  沿岸の3市村は似たような歴史があり、昔から長い付き合いがあるが、貧乏なことは石狩市や厚田村に比べものにならない。


 【3. 住民の反応は―】


 疑問あるが、長い目で検討必要 

  ■ 石狩市長

  単純な疑問として「なぜ過疎町村との合併を考えるんだ」ということになるが、もっと長い目でそのメリットを考えることが必要だと思っている。日本の中、北海道において石狩はどうあるべきかという視点で考えたときに、合併問題は極めて重大であり、私たちにとって避けて通れない問題ではないか。

 合併後の振興策どうなる 

   ■厚田村長

  村民の全体の声としては「今なぜ合併なのか」「村には貯金も持っているんだろう」「頑張れないのか」という声が非常に強い。石狩市が急速に発展し、産業構造も商業が中心となる一方、1次産業の厚田として合併後の振興策がどうなるか、村民が最も危惧している。

 苦難越えたからプライドもある 

  ■ 浜益村長

  陸の孤島と呼ばれた時代が何十年もあったので、浜益村民はプライドみたいなものも持っている。赤字再建団体となった苦しい経験もしている。そんなことから「なんとか浜益村を残すことはできないのか」というのが偽りのない村民の気持ちだと思う。

石狩3市村の財政比較 

  面積 (平方km) 人口 (人) 職員数 (人) 財政力指数 積立金残高(千円) 地方債残高(千円)
石狩市 118 55,323 386 0.65 39 499
厚田村 293 2,992 67 0.16 337 1,125
浜益村 311 2,310 67 0.10 215 1,544

(2000年度決算。積立金・地方債残高は、住民1人当たり。人口は2001年3月31日時点)


【4. 首長の考えは?】


 3つ重ねた場合の可能性論議を 

  ■ 石狩市長

  新しい時代の時代要求をきちっとテーブルに上げ、そのうえで議論を重ねることに時間を惜しんではならないし、避けてはためだと思う。合併問題を短期的に、自己中心的な発想だけで片付けることはできない。だからいろんな形で合併問題を多いに議論すべきだと思う。

  合併問題は、まちが大きいとか小さいとか、財政が豊かとかそうでないとかということをはるかに超えた議論があるべきではないか。厚田、浜益ともそれぞれに地域メリットを持っており、それらの特徴を石狩を加えて3つ重ねた時にどんなまちづくりができるのか、という議論をこれから進めたい。その一方で財政的な問題も極めて大切であり、わたし自身は賛成でも反対でもない、迷っています。

 時間欲しい、緩やかな合併も視野 

  ■厚田村長

  近年、石狩市は速いスピードで発展を遂げ、今や産業構造を別にするようになってしまった。人口6万近い石狩市に3千、2千の村が一緒になって本当に地域の声が最終的にどうなるのか、ということも心配だ。もう少し時間をかけた中で、例えば人口が同規模の厚田と浜益の間で緩やかに合併していけないものだろうか。

  心情的には「何でいまさら合併しなければならないのか。130年もの歴史を持って頑張ってきた。いまさら石狩市にくっついておれたちどうするんだ」といった思いを持っている。半面、高齢化や財政などいろんな問題を考えると、果たして単独でやっていけるかどうか、正直迷いがある。

  私たちが感じている以上に国は厳しいものを用意している感じだ。長期を見通した場合、本当に頑張りきれるか。万が一合併となった場合は、石狩市の皆さん一つ、快く迎えてください。

 祝福される合併、厳しい現実も 

  ■ 浜益村長

  交付税がさらに減らされていくようならば、果たしてこのままでいることが村民のためになるのかという疑問もあり、今苦しんでいるところだ。市町村合併も結婚するカップルのようにみんなから祝福されるようなものでなければならないと思う。しかし、なかなかそういかないのが、現実の問題だ。

  先日の新聞報道で「浜益村が合併に前向きだ」という記事がありました。私たちはいま本当に真剣になって考えており、結論をどう出そうかと研究を重ねているところだ。9月ごろをめどにして結論を出さなければと考えており、住民も神経質になっているときに、主観や憶測で記事を書かないでいただきたい。


 【5. 今後の取り組み】


 厳しい現状認識に立ち激論を 

  ■ 石狩市長

  競争社会がさらに進み、自己責任・自己決定・自己統治が求められる時代。経済は低成長期。人口減、食糧受給率、地球環境はさらに深刻化する。もっともっと現状を厳しく見つめていく必要がある。問題点をきちんと挙げて、長期的な住民の利益をもたらす仕組みを考えるべきで、合併問題もこの視点が必要だ。市内全域で考える環境作りをするので、忌憚のない激論を市民と交わしたい。

 村がどんな役割果たせるか議論 

  ■ 厚田村長

  15日から地域懇談会に入っている。財政問題がさらに厳しさを増していることや少子高齢化の流れも踏まえながら10年、20年、30年先を見越したまちづくりを考えようと住民に説明している。厚田の先の目標がどうなるのか今の時点で周知できれば、合併にもそう抵抗はなく、希望を持って目標に向かって努力できると思うが、今は国の財政とか交付税の問題のことしか話ができないのが残念だ。

  十分協議するだけの時間をもらえれば、決して合併に反対するとかいうことではなく、もっとすんなりといい意味での合併ということにもなるのではないか。合併するにしても、この2村が石狩の皆さんにどんな役割を果たせるのか。果たしていくべきかきちっと整理していきたい。論議を尽くせるだけの時間が欲しい。

 職員の声集約し住民と直接対話 

  ■ 浜益村長

  現在、職員を網羅した形で年代別、課別でいろいろな意見を集約しているところだ。職員の立場、1村民の立場、また働く者としての立場から意見をクロスオーバーさせながら集約している。その結果がどうなるかはこれからの問題だ。住民にはできる限りの情報を提供しているが、広報はなかなか読んでもらえない面もあるので、直接対話する中で説明をし意見を聞いていきたい。

 【首長討論を聞いて】  

  全国に比べると立ち遅れていた北海道内の合併論議が、ようやく活発化してきました。しかし、石狩3市村の首長討論会でもうかがえるように、国の厳しい姿勢に対する苦悩や焦りが先走っている感が強いように思えます。

  合併するかしないか、損か得かに議論が集中し、地域の未来の目標をきちんと描き、合併の道の取捨選択も含めた目標実現の方法を明確にするための住民の合意づくりが、ややおろそかになっているような印象を受けます。また、情報を公開し、住民の声を大切にしたいという行政側の思いが、現実には十分な議論になかなか発展していかない、という現実もあるようです。

  これは、行政情報を積極的に、しかも分かりやすく提供しながら、住民情報(声、意見)を掘り起こし、地域情報として共有していくという、住民参加型の行政を進める仕組みや手法の不備・不慣れも背景になっているのではないでしょうか。

  「2級町村」論の具体化の動きなどをきっかけに、合併パニックに陥るような事態は避けたいものです。まず第1に、冷静な論議を住民に投げかける首長のリーダーシップと職員の熱意、議会議員の地域の未来に対する見識と行動力が問われているのではないかと思います。

(梶田)

 

 

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