市町村合併の論点(3)〜地方制度調査会の動きから

2002/08/12
(オンラインプレス「NEXT212」90号掲載)

 

 1. 大都市の自立性・機能を高める

 市町村合併の進展は、巨大都市の誕生という側面も持っています。たとえば、日本青年会議所が97年に発表した道州制構想では、全国を339市に再編した場合、人口100万人以上の都市が30(2001年3月末現在10市)、50万人以上100万人未満が45市(同17市)と想定しています。現に2001年5月に3市が合併したさいたま市は100万人超の都市となり、現在合併協議を進めている自治体の中にも、政令市(人口50万人以上が目安)や中核市(同30万人)、特例市(同20万人)を目標にした動きが目立っています。

 ■都道府県との役割分担が焦点 

 地方自治制度を見直す上では、小規模町村の問題と並んでこれらの大都市をどう位置付けるか、都道府県や近隣の中小都市、町村とどう関係づけるかが焦点となっています。特に、都道府県との関係では、道州制とも関連して都道府県とどう役割分担するのかが、最大の論点となりそうです。

 大きな流れとしては、大都市の自立性を高め、都道府県からの独立性も高める方向にありますが、大都市にはさまざまな形態が見られます。人口50万人以上の都市には、さまざまな都市機能を完結した形で保つ自治体がある一方で、大量の昼間人口を引き受け中枢的な業務に特化した自治体や、逆に3大都市圏には居住機能を主体とした自治体も少なくありません。

 これらの自治体では都市機能の在り方と併せて、都道府県との関係では税財源をどう配分するかも大きな論点となっていきそうです。

 【大都市の在り方に関する論点】

●大都市の形態
  • 大都市自治体の基本的なイメージとしては、中核市程度の規模を想定すべきか、政令市並の規模を想定するのか
  • 政令市などの中には、さまざまな形態と機能を持った団体があるが、大都市制度のあるべき姿を検討するにあたり、その違いをどう考えるか
●都道府県との関係
  • 都道府県に対し大都市の自立性をより高める方向で考えるべきか、それとも、都道府県の役割を高める方向で考えるべきか
  • 政令市のような大都市の権能
  • 財源を拡大する場合でも、都道府県から完全に独立させずに水平的な関係を保ちつつ、都道府県の調整権限的なものが及ぶものとすべきか
  • 政令市のような大都市を都道府県から完全に独立させ、市の権能と府県としての権能を併せ持った「特別市」を制度化することについてどう考えるか
  • 大都市と都道府県の関係の抜本的な改変を別としても、さしあたり、政令市のような大都市と都道府県の関係で、例えば、税財源配分を組み替えることなどについてどう考えるか
  • 大都市地域における都道府県の議員のあり方

 2. 税源移譲、地域の自己責任明確化

 地方分権は、国から地方への財源移譲とこれらの財源に基づく地域の自己決定・自己責任と強く結び付いたテーマであることは言うまでもありません。また、2002年度末で国と地方を合わせた長期債務残高が約693兆円に上る見込みで、財政の健全化と財政基盤整備を同時に進めなければならない、厳しい実態にもあります。

 ■市町村再編と絡む財源問題

 2000年度決算では、国の歳出総額は約62兆9600億円で、自治体は約約96兆700億円。4対6の割合で地方がより大きな仕事をしているにもかかわらず、国税収入(約50兆7100億円)に対して基本財源である地方税収入は約35兆5500億円にとどまり、その比率は6対4と逆転します。こうした財政構造の見直しと、地域における受益と負担の関係をどう明確化していくかが、大きな論点となります。

 基本的な流れとしては、国から地方への税源移譲と、歳出面でできるだけ地方自治体の自由度を高めることが柱となるはずです。「地方のことは地方に任せ、財政面でも地方が責任を負う」という考えで、地方の独自課税や外形標準課税の導入拡大も論点となってきますが、一方では、税源移譲してもなお自治体間に財政力格差が残る場合も想定されます。

 地方交付税など国による財源調整で対処していくのか、財政力の弱い小規模自治体には新たな対応策を組み立てるのか、それとも実質的な強制合併とするのか。財政と自治体債編は強く結び付いて論議が進むことになりそうです。

【分権時代の財政基盤確立に関する論点】

  • 税源移譲などで地方税の拡充を図り、地方税中心の歳入構造の実現と地域における受益と負担の関係の明確化を図る必要があるのではないか
     
  • 住民の税負担の水準は、行政サービスの水準との関係において、地域においてより自主的に決められることが望ましいのではないか
     
  • 地方自治体にあっては、特に、個人レベルにおいても受益・負担関係が明確な税財政体系が求められるのではないか
     
  • 地方税における応益性の空洞化に対応するため、法人事業税への外形標準課税の導入を図るべきではないか
     
  • 地方団体の歳出に対する国の関与を廃止、縮減し、地方団体の歳出面における自由度を高める必要があるのではないか
     
  • 税源移譲を含む国、地方間の税源配分の見直しに際しては、まず国の関与の強い国庫補助負担金の大幅な縮減を図り、相当額の地方税への振替えを図るべきではないか
     
  • その際、地域間の財政力格差の問題を考慮して、移譲税目や課税内容について十分検討するとともに、国庫補助負担金などの在り方についても検討する必要があるのではないか
     
  • 税制上考慮してもなお残る、税源移譲に伴う地域間の財政力格差の拡大や、国の関与を縮小してもなお必要な財源調整に対しては、地方交付税などによる適切な措置を講じる必要があるのではないか

 3. 「しくみづくり」地方からも声を

 地方制度調査会の検討課題をまとめると、概ね以下の内容になるかと思います。 

(1) 基礎的自治体の機能、組織の位置付け 

(2) 合併の流れから取り残された小規模町村をどう補完するか

(3) 合併で大型化した都市と都道府県との関係

(4) 都道府県の見直しと道州制導入

(5) 財源の見直しと財政健全化の目標と道筋をどう付けるか

(6) 地方制度見直しに当たって、地域の多様性・自主性をどこまで認めるか

 ■合併論から制度論へ

 これらの課題は、日本の地方自治制度を大きく変える要素を含んでおり、論議は現在の仕組みの中での「合併論」から仕組みそのものを問い直す「制度論」へとシフトされています。

 調査会の中間報告は、2003年3月までにまとめられる見込みで、合併特例法の期限まで2年間を残すだけのこの時期には合併の流れの大勢がほぼ見える状況になっていると予想されます。一方、市町村の中には、中間報告の方向を見定めてから、とか特例措置の延長に期待を寄せる向きもあるようです。

 しかし、中央での論議の焦点が「再編をどう進めるか」よりも「地方の仕組みをどう変えるか」という問題に移っていることを考えると、「今住んでいる地域をどうしていくのか」市町村 (住民)自身がこれまで以上に明確な方向付けをしなければ、制度改革の大波に飲み込まれかねない状況に置かれているとも言えます。

 ■最低単位は人口1万人?

 【人口規模別自治体数

 小規模町村の在り方について総務省内部で検討してきた研究会は、合併特例法以降の措置として人口1万人を市町村の最低人口規模とし、これに満たない町村を大胆に「整理」する考えも示しています。調査会においても同様の議論が出てくる可能性は十分あり、単純な反対論だけでは通用しないことも予想されます。

 合併論議は「是非論・損得論」に終始している面もあるようですが、合併という選択肢を視野に入れながら、地域づくりの方向を見定めるとともに、そのための地方制度の在り方についても、市町村が具体的な道筋を提起していくことが求められています。地方のしくみづくりを総務省や調査会の論議に任せるだけでなく、積極的に地方から声を上げていくことも大事だと思います。

 先進的な取り組みを進めている県知事が地方制度改革に向けた「知事連合」を結成したように、小規模町村連合による広汎な議論と具体的な提案があっても良いのではないでしょうか。合併をめぐる研究会や協議会に対しても、こうした議論の広がりとその成果を期待したいところです。

 

 

| TOP | NEXT | BACK |