(1)まちづくり研究会報告書を基に

住民参加チェックリスト活用法

2004/01/26
(オンラインプレス「NEXT212」第148号掲載)

 

 <1>地域の知恵を寄せ集める

 3年間にわたって住民参画型まちづくりの推進方策を探ってきた財団法人・北海道市町村振興協会の研究会(座長・佐藤克廣北海学園大学教授)の最終報告書が、このほどまとまりました。地方分権を進め住民自治を根付かせる上で、まちづくりの新たな視点を提起する内容となっています。調査研究の内容については、これまでも本誌でリポートしてきましたが、ここでは改善に向けた基礎資料となる「住民参加の評価・チェックリスト」の活用法について紹介します。

 ■ナレッジ・マネジメントを道具に

  報告書では、住民参画型まちづくりを進めるための道具として「ナレッジ・マネジメント」の手法の活用を提起するとともに、まちづくりの展開を5段階のステップに分けることで地域の知恵を蓄積・活用しながら、参加・協働の場を創出していく道筋を示しています。

 ナレッジ・マネジメントは、時々刻々に変化する情報を組織全体に血液のようにうまく循環させながら、断片化しがちな情報を組織活動に有効・有益な知識や知恵に高めることで、組織の目的・目標を達成しようという考え方です(本誌第141号参照)。

 社員・社業の活性化を目的に企業経営の場で発展してきたナレッジ・マネジメントは、行財政改革の場においても有効なツールとして注目されています。ここで重要なことは、住民参画型のまちづくりを進めるに当たっては、行政組織内部のナレッジ・マネジメントにとどめるだけでなく、住民・NPO・企業・議会などを巻き込んだ地域全体におけるナレッジ・マネジメントとして捉えることです。

 したがって、ここでいうナレッジ・マネジメントは、「地域の知恵を総結集する」ことにほかならず、地域のリーダーである首長の側から見ると、明確なビジョンの下に職員の知恵を結集すると同時に住民の知恵を生かすことが大きな課題となります。「5つのステップ」は、知恵を出し合い、情報を共有する中で合意を形成し、地域の潜在的なパワーをまちづくりにつなげていく過程ということになります。

 まちづくりの5つのステップ

   STEP-1  住民と行政の情報の受発信
   STEP-2  住民と行政の情報共有
   STEP-3  地域における知の蓄積
   STEP-4  参加・協働の実践
   STEP-5  まちづくりの体系化

 具体的なまちづくりの展開に当たっては、これらのステップを実践を通して行きつ戻りつしながら発展させていきます。チェックリストも、これらのステップを下敷きにして、首長、職員が自己評価し、あるいは議会議員や住民が点検するといった活用を期待しています。

(チェックシートPDF)

 <2>情報共有を起点に協働の場を創造

 「5つのステップ」にしたがった住民参画型まちづくりの展開は、下の図のようなイメージになります。

 【第1〜第2ステップ】
 全てのはじまりは、情報の受発信にあります。行政側から、まちづくりのテーマや計画づくりなどに至る経緯・現状・課題を住民に示すところまでは実践できても、これらの情報を住民それぞれが身近な問題として理解し、考え、議論するところまで発展させるためには、さまざまな情報伝達の道具を生かしながら分かりやすく、タイミング良く発信することが必要です。特に重要なのは、行政と住民間ばかりではなく、行政内部、住民同士の間でも双方向の情報の受発信を可能にすることです(本誌第71号参照)。

 【第3〜第4ステップ】
 情報の共有によって行政と住民が問題の背景・原因や課題の核心について共通認識を持つことができれば議論も成熟し、解決策や克服法を編み出すことができます。重要なのは、議論の過程で問題や課題を身近なものとして理解するところから、解決のために住民が積極的・自主的に動き出すような状況を作り出せるかです。実践はときに失敗もしますが、成功・失敗の経験に関する情報も共有され、新たな議論や解決策の実践へとつなげるような「まちづくりのノウハウ」の蓄積へと発展させていくことが求められます。

 【第5ステップ】
 住民参加・協働による計画づくりや事業実施、それらの評価・見直し、新たな実践といった取り組みを、より高度にしていくためには、住民参画型まちづくりを体系化することが必要となってきます。そのためのしくみとして、住民参加条例や政策評価システムなどの整備・導入と、住民の積極的なまちづくりへの参加を人的・技術的・財政的にサポートするまちづくり支援システムの整備も求められるでしょう。

 チェックリストでは、これらのステップに応じた体制づくりや実践の度合いなどと合わせて、首長・職員・住民の現状認識と、職員の意識向上(自己研鑽)の実態を評価する形式を取っています。評価は0〜3ポイントの4段階としています。

 <3>チェックシートで弱点を抽出しよう

 「住民参加の評価・チェックリスト」は、行政が住民参加を進める上で現状で何が欠けており、今後どんな対策が必要なのかなど、いわば弱点を自己評価によって把握し、改善に向けた基礎資料の一つとすることを狙いとしてます。

 まず、首長や職員自身がそれぞれ、チェックしてみてください。部署単位や自治体単位で全体を集約することで、問題意識の違いや部署による違い、全体としてのウイークポイントなどが見えてくるでしょう。リストは行政に携わる者が自己評価する方式を取っていますが、議員や自治会、NPOなど参加・協働のパートナーとなる地域セクター関係者や住民に評価してもらうことも参考になると思われます。

 下のレーダーグラフは、5つの項目ごとに評価ポイントの平均点を出してプロットしたものです。再下段は、住民参加の起点となる「情報補受発信と共有」に関する第2項目に限って、5つの中項目に沿ってグラフ化したものです。

 この4市町は「NEXT212」の読者のご協力で提供いただいた評価結果の一部です。A町は住民参加に積極的なモデル的な自治体の一つですが、「職員の意識向上」の項目の評価が低めなのはナレッジ・マネジメントの導入の遅れなど新たな対応の遅れなどを反映しているようです。D町は議員による評価で、職員による評価は得ていませんが、かなり厳しい見方をしているようです。

 左は議会議員による評価例で、ここで紹介できなかったものも含めて全体として「住民への発信」に比べて「住民からの受信」が不十分なことが、ステップアップにつながらない要因となっている 、かがわせます。

 (評価結果の提供にご協力いただいた皆さまには、本誌上にてお礼申し上げます。ありがとうございました)

 

| TOP | NEXT |