「住民向け予算説明書」
〜情報共有により住民参加の第一歩踏み出す〜

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 ■大都市にはできない芸当

 ニセコ町の取り組みを機に、後志管内の近隣町村などで予算を含めた財政情報を積極的に公開しようという動きが高まっており、特に、この1、2年で全国的に「町民向け予算説明書」を作成する自治体が目立ってきました。

 これらの動きは、人口規模が2万人以下の町村に多く見られ、住民個々が予算との関連を意識できるレベルまで説明するには、人口規模の制約があるためと考えられます。「町民向け」だから電話帳のようにいつも身近にあるということを考えても、無料の全戸配布が必要条件となるため、分量や費用面からも大都市ではやりたくても難しい事業といえそうです。

 ■財政難と分権の流れの中で

 「町民向け予算説明書」が注目される背景には、「地方分権」と「財政危機」という地方自治を取り巻く二つの要素があると考えられます。
 財政危機の中で地方自治体は、少ない資金を生かして住民ニーズに最大限に応えなければなりません。すべての注文に応じた「あれもこれも」の時代から、「あれか、これか」の政策選択の時代に変化してきていることは否定できません。この結果、ときには住民に我慢を強いることもあり、これまで以上に行政の実情(特に財政状況)について十分な説明と、住民の理解が必要になってきたからです。

 また、地方分権の流れは、地域の自主自律を求めることにほかなりません。行政と住民がまちづくりに知恵と工夫を凝らす「協働」がより大きなテーマになってきており、住民参加を促進するためには、積極的に行財政情報を提供することが必要だからです。

 ■行政に住民を巻き込む

 「町民向け予算説明書」の導入目的は、一つには、町を取り巻く厳しい財政状況と、地方分権の流れに沿った町政推進の方向を理解してもらうことにあります。行政のアカウンタビリティ(説明責任)の実践の側面を持ちます。

 これがどちらかといえば消極的な目的とすれば、もう一つ積極的な目的として、まちづくりの問題解決と課題克服のために住民の知恵を結集するきっかけづくりとする側面もあります。情報をどんどん提供することで住民をまちづくりに巻き込んでいく「パブリック・インボルブメント」という手法です。先進的な取り組みをしている自治体はいずれも、住民参加条例や住民会議などの事業と組み合わせることで、住民参加型のまちづくりを推進することを説明書導入の狙いとしています。

 ■導入に当たっての課題

 「町民向け予算説明書」はまだ歴史が浅く、定型的なパターンや作成のためのマニュアルも整備されていません。それぞれの自治体が行政の実情に合わせながら工夫と改善を凝らしているのが実態です。

 しかし、住民と行政、住民同士が地域情報を共有し、住民参加型のまちづくりを進める上では、まちづくりを考えるためのハンドブックともなる「町民向け予算説明書」は、大きな意義を持っています。
 先進事例などを基に、導入のための課題を次ページにまとめました。出前講座や行政評価との連動や政策過程の情報公開などこれから体制整備が必要なものもありますが、できるところから手を着け、着実に積み上げていくことが大切だと思います。