市町村合併を考える3-3

2000/11/17

 

公共サービスに顧客主義の視点を

 広域連合の事業項目をみると、ふるさと市町村圏の計画策定や道路、病院、観光など広域的な行政課題は並んでいますが、具体的な事業の推進よりも参加市町村間の連絡調整が広域連合の主たる目的となっている面も否定できません。広域連合の仕組みを最大限に生かすならば、行政の側からスケールメリットを追求するのではなく、より住民にとって利便性が高い公共サービスを、どこが、どんな形で提供するのがベストなのかを明確に絞り込むことが必要でしょう。

■優先されがちな行政の都合

 南信州の例では、民営化した場合に職員の身分をどうするか、という「行政サイドの都合」が問題となりました。もちろん当の職員にとって大変重要な問題ではありますが、複数自治体の連携によってより充実した福祉サービスを提供するという広域連合の考え方がもっと前面に出た論議も必要だと思います。

 また、論議の発端となった「特養施設の民営化」という発想は、だれが公共サービスを提供するか、という市町村合併や地方自治の本質に関わる重要な問題も含んでいます。

 行政サービスは大きく見ると、国と地方、それに最小単位である市町村がそれぞれ作業分担しています。地方は日本でいえば、都道府県という中間的な行政組織があり、米国では州と町の間に、大統領選の開票作業でクローズアップされたカウンティがあります。

■納得行くサービス求め転居

 どこの国でも多かれ少なかれこれらの行政レベルに応じてサービス業務・役割を分担しているわけですが、米国では、町が業務の一部をカウンティに移転するケースが見られます。権限移譲の形で上部から下部へと業務が降りていく日本とは対照的です。また、消防や上下水道、自然保護、公園管理などさまざまな分野に応じてサービスを供給する特別区という機関があります。

 特別区は、対象エリアが町の境界とは無関係な点で日本の広域連合とは少し異なりますが、特定の目的に沿って、独立して広域であることのメリットを公共サービスに生かすという点では、似通ったところがあります。

 根本的な違いは、住民が納得いくサービスが受けられるのであれば、だれが供給するかはあまり問題でないという考えが基底にあることです。したがって、より安い税金を求めて移転したり、税金が高くても上質なサービスを求めて転居する住民も出てくるわけです。

■行政と民間が競争入札

 英国では、サッチャー政権の時代に、より上質で効率的なサービスであれば、提供するのは自治体でなくとも良いのではないか、という考えが徹底されました。第三者による行政評価と合わせて、行政と民間企業の競争入札でサービスの提供者を決める「強制競争入札」という制度が導入されたのです。

 行政のシステムや国民感情など事情の違いから、英米方式をそのまま日本に当てはめることはできません。しかし、質と効率性の面から、つまり公共サービスを受ける住民の側に立って、行政の在り方を考えることは、市町村合併や広域連合、さらには地方分権の方向を考える上でも重要な視点だと思います。

 顧客主義の視点に立てば、行政と住民や企業など地域の多様なセクターとの役割分担の方向が浮かび上がり、地方自治体がどんな形態を取るべきかも見えてくるのではないでしょうか。

 

 

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