続・市町村合併の論点6
提言・実践首長会の新自治体構想

2003/03/24
(オンラインプレス「NEXT212」116号掲載)

 

1. 地域特性・多様性を生かすしくみ

 全国の市町村長50人が参加した「提言・実践首長会」(会長・石田芳弘犬山市長)は、逢坂誠二ニセコ町長を部会長とした市町村合併部会の論議に基づき、新たな自治体構想の実現に向けた提言書をまとめました。

 提言は、市町村合併が時代の流れと認識する一方で、「全国画一による合併方式には大きな問題がある」との視点から、地域特性や多様性を生かす形で住民自治を進めるための、新しい仕組みづくりを柱としています。提言書では、現行方式による合併の具体的な問題点として、次の点が挙げられています。

  1. 本庁に権限、財源、職員が集中することで、本庁を置かない旧市町村が寂れる
  2. 役所が遠くなるとともに、コミュニティの機会が減少し、住民自治が阻害される
  3. 人口の多い旧市町村から選出される議員数が増え、周辺町村の住民の声が議会に反映されなくなる
  4. 地域の特性が薄れ、施設の均等建設、総花的補助金の交付などの結果、コスト削減につながらない

 ■住民自治を条例で明確化

 これらの問題に対応する措置として合併特例法は、旧市町村を単位とした地域審議会の設置の道を開いています。しかし、設置期間は限定され、審議会は合併後の首長の諮問に応じて意見を述べるにとどまります。支所機能は窓口業務程度で、地域審議会との関係も曖昧です(上の図)。  このため提言は、自治基本条例に基づいて、支所に一定の政策機能・権限を持たせた「地域振興局」と、地域予算の審議機能を持つ「地域審議会」を設置する考え方を打ち出しました(下の図)。

2. 「身近な政府」核にまちづくり

 提言は、地域特性や多様性を重視し、具体的な住民自治の枠組みについても地域住民の自主的な選択に委ねることを基本としています。このため、「地域振興局」が取り扱う事務の範囲や、「地域振興議会」の設置運営も、地域ごとに定めていくこととしています。

 ■振興局に機能分散、自主性を尊重

 したがって、地方自治法上の市長-市議会と、条例に基づく振興局長(副市長)-振興議会という一種の二層構造を取りながら、地域の問題・課題については振興局-振興議会の意向を尊重する仕組みを取っています。例えば、予算については、振興局長がそれぞれの地域政策と予算を振興議会に提案します。市長は、振興議会の審議を経た予算を総合調整した上で、市議会に提案します。仮に市政の運営上、修正が必要な場合には、意見を付けて振興議会の再議を求めることになります。

 振興局長は、地方自治法に基づき市長から権限の委任を受けた副市長で、振興局はまちづくりの核となる身近な政府として機能します。役所の組織形態としては機能分散型で、職員も旧自治体の職員数を基本とする考えです(ただし、総数の減少に応じて削減)。

 振興局の予算に関しては、合併後の経過措置として旧自治体の基準財政需要額を基に、広域事務を除いた分を予め自治振興分として配分することを国に求めています。

 ■議会の代表機能・審議機能を強化

 市議会の議員選挙については、周辺住民の声を反映させる観点から、旧市町村に配慮した選出方法を取ることとしています。例示では、かつての参議院の全国区・地方区方式のように、全市区議員と選挙区議員の割合を3対7とし、選挙区では定数の2分の1を旧自治体の数で単純割りし、残りを人口配分する方法を挙げています。

 この方式を人口1万6千人のA町、4500人のB町、3500人のC村にあてはめると、全市区が8人、選挙区のA町地区は9人、B町地区5人、C村地区4人という議席配分になります。

 また、提言では、市議会の審議形態について、現在一般的な国会型から、二元代表制型への変更。つまり円卓形式や議員討論方式の導入などで、議会審議機能を強化させるべきだとしています。 地域振興議会の議員定数は、それぞれの地域で判断し、議員報酬は無報酬または少額としています。

【地域振興局が取り扱わない事務の例】

 地域特性に応じて十分な協議に基づき、柔軟に事務分掌を定めることが原則 

  • 公平委員会に関する事務
  • 廃棄物収集、火葬場管理など環境衛生
  • 上下水道の設置管理
  • 防災関連
  • 介護、国保、広域医療など保健福祉
  • 農業委員会事務、農業共済事業、治山治水 など第1次産業に関する事務の一部
  • 教育委員会の全事務を含む教育関連
  • 職員の人事管理、給与、研修など
  • 総合計画など企画調整に関する事務
  • 情報管理関連
  • 循環バスなど地域間交通システムの計画と実施
  • 広域的観光、商工事務
  • 市税、各種使用量などの聴取事務
  • 交通災害共催事業
  • 広域的幹線整備に関する事務
  • 固定資産評価審査に関する事務
  • 監査委員会事務局の事務

 3. コミュニティ自治に光を当てる

 「提言・実践首長会」の提言は、税財源問題などを背景に市町村の裁量権を実質的に狭めている国の「しばり構造」を脱却し、市町村の自主・自律体制を確立することを最重点としています。そのためには、地方自治法などの大幅見直しと自治体運営における長期的な財政根拠、さらには都道府県の位置付けについての将来展望を国が明確にすることが必要だ、としています。

 ■手続き論・効率論から長期展望へ

 市町村合併は、特例措置の期限が切れる2005年3月に向けて、全国的に議論が沸騰しています。どちらかといえば、期限優先の手続き論や、財政難を背景にした効率論が主体とされる中、長期的な視野に立って住民自治の実現につなげようとする議論も目に付いてきました。

 本誌では、小規模自治体の再編に言及した「西尾私案」(第100号)はじめ南信州広域連合の「地域自治政府構想」(第101号)や北海道町村会の「連合自治体構想」(第110号)などを紹介してきました。これらの具体案や問題提起をステップに、自治の新しい方向が開けていくことを期待したいものです。

 新しい自治体構想は、市町村間の連携・合併という規模拡大による効率化を追求する一方で、現在の市町村や、あるいはそれよりも小さな単位のコミュニティに光を当てることで住民自治の実現を追求している点で共通しています。しかし、いくつかの違いも見て取れます。

 ■ポスト合併特例法を視野に

 例えば、首長会の提言が「合併後」に目を向けているのに対し、北海道町村会の連合自治体は「合併まで」を視点としていることから、その形や性格はずいぶん異なっています。地域内分権の形を取る南信州の地域自治政府は、首長会が提言する分散型自治体と構造は似通っていますが、公的なサービスの分担をどう図るかという視点に立った構想のため、首長会の提言とはやや性格が異なっているように思えます。

 首長会提言が描く自治体の特徴は、住民自治の拠り所として市議会と地域振興議会の審議機能を重視している点にあるようです。特に振興議会には、自治基本条例に基づいて広範な機能・権限を持たせる道を開いており、市議会における二元代表制型審議への転換などと合わせて、地域のフォーラム機能の確立を住民自治の定着につなげていこうとする考えがうかがえます。

 これらの地方からの提言を基に、議論を広げ、合併特例法以降の地方自治の在り方を明確にするとともに、地域の特性を生かした住民自治のモデル的な取り組みが進むことを期待したい。

 
 

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